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脚本家にはお馴染みの「セーブ・ザ・キャットの法則」というテクニックがあるんですよ。
ざっくり言うと「ヤクザ者でも、ネコを助けるエピソードを見せれば好感度が上がる」心理のことで、たとえばディズニー映画「アラジン」の冒頭で、主人公アラジンが子供にパンを分け与えたシーンが有名ですな。
SAVE THE CATはタイミングが命なので、詳しいことは書籍「SAVE THE CATの法則」を参考にしてみてください。プロットの書き方や面白いコンセプトのつくり方も学べる良書です。
ただ、世の中には「良いことしても全然好感度が上がらない人」もいるわけです。
たとえば、不倫した芸能人がどれだけ社会奉仕しても世論から袋叩きにされるように「一度嫌われたキャラが猫を助けたとこで印象は良くならないのでは」とも思うんですよね。
てことで今回は「セーブ・ザ・キャットの法則を正しく使う方法」を考察します。
コーネル大学がおこなった「第一印象の科学論文(※1)」を参考にしましょう。創作を対象にした研究ではありませんが、架空の登場人物の印象を判断する実験なので信憑性はあるのではないかと思います。
- もくじ
1 第一印象の悪さはネコを助けても回復しない
まず結論から言うと。
- 第一印象が悪いキャラは、どんなに改心しても印象はよくならない
- 悪い印象の原因になったエピソードが「冤罪だった」とわかっても印象はよくならない
- 悪い印象の原因になったエピソードに「やむを得ない理由があった」場合は印象が回復する
という結果に。
つまり、SAVE THE CATで印象をよくしようとしても「元の印象が悪すぎる」場合はほぼ挽回不可能なわけですね。
クズな主人公の印象をあとから挽回するのは、かなり高度なテクニックのようです。
1-1 「改心した」には説得力がない
実験の詳細を詳しく見てみましょう。研究チームは200名の学生に、以下の架空のエピソードを聞かせました。
フランシスは隣人の家に侵入し、大事なものを奪って逃走したが、逮捕された
いかにもフランシス(架空の人物)に嫌悪感を抱いてしまいそうなエピソードですね。実際こういう犯罪のニュースが流れると、ネットでプンプン怒ってる人は多いですし。
研究チームは次に、フランシスについて以下2つの情報を追加しました。
- 心を入れ替えたフランシスは、命の危険をかえりみず子供の命を救った
- そもそもフランシスは強盗などしていなかった。冤罪だった
つまり、後からフランシスの株が上がるエピソードを投下したけですな。
ところが結果は前述したとおり「改心した」と伝えても悪い印象は覆らなかったとのこと。
たしかに、不倫した芸能人がいかに反省の弁を口にしても「許さない!」と罵られてるナゾの光景は何度も見てきた気がします。誰とは言いませんが。
1-2 「冤罪だった」にも説得力がない
この研究で面白いのは「フランシスは強盗などしていなくて、冤罪だった」と判明しても、悪い印象が変わらなかったことでしょう。
んな理不尽な、と思いたくなるところですが「一度フェイクニュースを信じた相手は意見を変えない(※2)(※3)」というデータは割と多かったりします。
「盗みをするなんてフランシスけしからん!」と思ってる人にフランシスの冤罪を伝えても「そうだとしても、そもそも顔が気に食わん!」みたいに、論点をズラして嫌われちゃうわけですね。
2 「やむを得ない理由」があれば好感度は回復する
ただ、この研究では「悪い印象の原因になったエピソードにやむを得ない理由があった場合は印象が回復する」こともわかっています。
たとえば、以下のエピソードを聞いた被験者は、フランシスへの評価が一転し、ただちに好感を抱いたそうな。
フランシスは隣人の家が火事で燃えていて、子供が逃げ遅れていることを発見したので家に入った。
フランシスは子供を抱えて外に出たが、それを誘拐と勘違いされた。
「隣人の家に入ってなかった」という説明より「入ったのは事実だが、やむを得ない理由があった」と説明されたほうが好印象に繋がるわけですね。
そういえば最近読んだ「いじめるヤバイ奴」って漫画では、いじめっ子の主人公が「やむを得ない理由」でヒロインをいじめていたのですが、たしかに「やむを得ない理由」が判明した後は好感度が回復したんですよねぇ。
とはいえ、嫌われてるキャラクターの好感度を上げるのはむずかしそうなので、無理して「SAVE THE CAT」を挿入しても白々しくなるんじゃないかなーと思ったりもします。
漫画「生まれる価値のなかった自分がアンナのためにできるいくつかのこと」のように、いさぎよく主人公の好感度を捨て去るのもいいかもしれませんね。
3 まとめ
まとめます。
- 嫌われた人物の好感度を上げることはむずかしい
- 印象が悪くなったエピソードに「やむを得ない理由」があれば挽回も可能かも
一度嫌われてしまったキャラクターは、SAVE THE CATでも挽回がむずかしいかもしれないので、読者が主人公に抱く感情は「欠点はあるけど憎めないよなぁ」ぐらいにコントロールしたほうが良さそうだなと思いました。
以上です。